オリジナルはこちら(2014/3/14)
前回のブ
ログ記事『1%ルールの終焉(または社内ソーシャルの過去・今・未来)』では、人間はなぜ同じ過ちを繰り返すかのか? について、深く考察しました。
…嘘です(最後にちょっと触れただけですね)。
実際には、ソーシャルウェブの世界で「1:9:90の法則」(ユーザー100人のうち、積極的に投稿するのは1人だけで、残りの99人のうち9人がコメントをし90人は見るだけ、という「1%ルール」とも呼ばれるもの)が、あらゆるところに「「いいね!ボタン」が配置されたことにより「10:20:70」に変化したという話を書きました。
そして、それと同様のことが、IBM社内のエンタープライズ・ソーシャルツールでも起こったということを紹介しました。
今回は、IBM社内で起こったこの「10:20:70」への変化を、もう少し詳しく見ていきます。
そして、コメントへの「いいね!」以外にも幾つかある重要な要因の分析と、今後の展望について書いていきます。
■お断り: 数字的根拠と再現性
最初にお断りしておきたいのは、この「10:20:70」への変化は複数要因が重なったものであり、それぞれの要因が果たした割合いはわかりません。
また、仮に数字的データがあったとしても、それが再現性を持つものになるかということには個人的に疑問を持っています。
なぜなら、ソーシャルウェブというものが、さまざまな環境因子に影響されるものであり、まさにそれこそがソーシャルウェブがソーシャルたる所以だからです。
とりわけエンタープライズソーシャルにおいては、各企業の固有の文化や社内環境の影響が強く、同じ仕組みや取り組みであってもその効果の現れるタイミングや場所が大きく異なることも珍しくないからです。
この文化や社内環境要因の話はそれ自体が奥深く、「繋げる/紡ぐことができる人」(※)が社内にどれだけいるかにも大きく左右され…と、この話はまた別の機会にして、今回はシステム的な変化要因に絞ります。
※「繋げる/紡ぐことができる人」の重要性については、先日『エキスパートの素顔:第3回 八木橋 昌也』というインタビュー記事に掲載いただきましたので、よろしければご覧ください
■システム的要因1 : コメントへのいいね! ボタン設置
『1%ルールの終焉(または社内ソーシャルの過去・今・未来)』を読み、「コメントへのいいね!ボタンの配置」がブログやマイクロブログだけを対象と思われた方もいたようです。
実際には、それだけではなく共有ファイルへのコメントやWikiページへのコメント、ディスカッションフォーラムのそれぞれの書き込みなど、あらゆる場所に配置されていて、そこかしこでコメント発信者が承認と賞賛を受けれるようになっています。
また、誰が何に「いいね!」を付けたという情報が、人のつながりを介してタイムライン上にも表示されるというソーシャルウェブの基本的な拡散の仕組みも、より一層の承認と賞賛の機会を増やしています。
これにより、従来は「まめに返信してあげることで行動意義を感じてもらおう」とか「関係者に裏で返答を依頼しよう」とか、こうした「中の人」的な作業は大幅に軽減されます(なくなるわけではありません)。
■システム的要因2-1 : SOE(システム・オブ・エンゲージメント) - 社内検索システムとの連動
(コメントを含む)発信者の増加はコンテンツ量の増加に繋がり、それに比例して多くの社員にとって有用な質の高いコンテンツが増えていきます。
ここで重要なのが検索システムとの連動です。
IBM社内では、こうして増えていったソーシャル上のコンテンツを、イントラネットへログインさえしていれば検索できるようにしています。
そして結果ページの表示に、わざわざログインを求めることはありません。
ログインしてまで検索したのに、ヒットがなかったら…。
あるいはせっかく見つけたと思ったら、空振りだったら…。
社内ソーシャルに対する有用性の認識は、大きく下がることでしょう。検索するだけ、あるいはただ見るだけなのにログインさせるのは、ユーザーの期待値を不要にあげる行為です。
(なお、ソーシャル上のあらゆるコンテンツがログイン不要の検索対象になるわけではありません。誰でも見られるものとして投稿されたコンテンツのみがログイン不要の検索対象となります)。
■システム的要因2-2 : SOE(システム・オブ・エンゲージメント) - 人事システム、CRM、モバイルアプリとの連動
やっぱり長くなってきちゃった…。リズム良く行きましょう。
オープンにできる情報はオープンにしていき、そこで価値を生み出していこうという「オープンデータ戦略」は省庁や行政だけの取り組みではありません。
IBM社内でも、さまざまな社内システムとシステム内のオープンデータを繋げて活用しあい、利便性向上と新たな価値の創出を進めています。
社内ソーシャルはこうしてデータが集まるハブと位置づけられており、例えば人事システムが持つ個人のメールアドレスや電話番号といった公開情報は、人事システム上で書き換えられれば即時に更新情報として社内ソーシャルにも反映されます。
同様に、お客様とのやり取りをCRMにインプットしたら、その情報に関係する社員のタイムライン上に更新情報としてフィードが送られていきます。
こんな風に、さまざまな社内システムが繋がり有機的に情報がやり取りされるのが社内ソーシャルとなっているので、社員の活動はどんどんソーシャルに、そして(コントロールされた範囲内で)オープンになっていきます。
■未来予測 - 「10:20:70」から「20:60:20」へ
こうして、社員の個人としての、そしてチームメンバーとしてのコミュニケーションとコラボレーションが社内ソーシャル上に集約されていくと、誰もが発言者となるでしょう。
そして「10:20:70」はいずれ「100:0:0」に近づき、この数字を追うことは意味を成さなくなります。
こうなると、追うべき対象は発信者の割合から、そこで改善へと繋がるコミュニケーション、イノベーションが生み出されるコラボレーションがどれだけ行われるかです。
ここで新たに現れる数字が「20:60:20」――どんな組織にも常に最高レベルの20%とパッとしない20%が生まれる――という「働きアリの法則」であり、議論の対象もそちらに移っていくのではないでしょうか。
これは非常に大きなテーマで、とても今回のエントリー内では取り上げられません。
機を改めて「社内ソーシャルで働きアリの法則に挑戦する」という話をいずれ書きたいと思います。
Happy Collaboration!