Pachi's Blog Annex ~自薦&自選よりぬき~

『Pachi -the Collaboration Energizer-』の中から自分でも気に入っているエントリーを厳選してお届けします♪

脱! 負のスパイラル - 『「期待」の科学 悪い予感はなぜ当たるのか』を読みました

オリジナルはこちら(2015/5/7)

 

行動科学とか進化心理学とかの本を読むと、「へー!」とか「おおっ!」とか思わされるエピソードとか論理が多くて、ド素人ながらそういうのが大好物な私はちょくちょくその類の本に手を伸ばします。

今回紹介する「期待」の科学 悪い予感はなぜ当たるの』もそういう系列の一冊です。

 

「期待」という人間の脳内行動(「意識」と呼ぶほうが正しいのかな?)が、実際にどのように現象として表れるかについて、さまざまなケースとともに紹介されています。

「あまりに広範囲過ぎてついていけない…」と感じる人もいるかもしれませんが、私は「へー!」と「おおっ!」を連呼しながら読み進めました。

 

例えば、こんな感じです。

 

 

■ギャンブル中毒者が楽しんでいるのは「勝つこと」ではなく「勝てるかもしれない」という期待そのもの。彼らの脳内では「惜しい」結果に対してもドーパミンを分泌する部位が活性化している(結局は負けているのにもかかわらず)

 

■スピードと正確さが求められる難易度の高い競技においては、応援者がいるとむしろ成績は悪くなる傾向がある

 

■そんなバカなことあるわけない! と思うけど、初めて会った人から温かい飲み物をもらうと、その人のことを「温かい人」と感じる

 

 

これはほんの一例で、スポーツにおけるドーピングやワインテイスティングが抱えている根本的な問題、ステレオタイプやプラシーボ効果が引き起こす教育や医療の現場の問題などなど、社会のさまざまな場面で「期待」が引き起こしている現象を、多数の調査結果をベースに描き出しています

 

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この本の日本語のサブタイトルは『悪い予感はなぜ当たるのか』なのですが、オリジナルは"The Surprising Power of Expectations"で、直訳すると「期待の驚くべき力」です

私は仕事でも日常生活においてもちょくちょく「期待値コントロール(事前期待を適正にすること)」について考えたり、そのためになんらかの行動を取ることが多いのですが、この本にはまさにそうした「期待」の持つ底知れぬパワーに改めて驚かされます

 

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そしてタイトル、サブタイトルとともにすごく気になるのが帯です。

イングランド代表チームはなぜPKをはずすのか?

 

サッカー好きでイングランドのプレミアリーグ好きな私には、この本の一番の目玉はPK戦を「期待」から科学した話でした

ノルウェースポーツ科学学校のスポーツ心理学者で、ご自身も元選手でコーチを務めたこともあるというゲイル・ジョルデさんという方の研究から分かった驚くべき話を最後に紹介します

 

この30年間に国際試合で重要なPKを蹴ったことのある選手を3つのランクに分けている。まずランク1は、「PKの時点ですでに最高の地位にあった 選手」だ。たとえば、FIFAの最優秀選手賞を獲得した経験のあった選手などがこれにあたる。ランク2は「後に最高の地位を得る選手」で、PKの時点では なく、その後に同等の賞を取った選手を指す。そしてランク3が「最高の地位にはいない選手」だ。PKの前も後も主要な賞を獲得しなかった選手が該当する

PK戦シュート功率けを見ると、この中で最も低いのはランク1の選手で、65%にとどまる。それに対し最も成功率が高いのはランク2の選手で、89%にも達する。ランク3の選手はその中間で、成功率74%だった

 

ここだけを読むと「いや、最高ランクの選手だから相手チームのコーチとかキーパーに研究されているからじゃないの?」という気もするのですが、そうではないそうです。その証拠に、そもそもゴールの枠に飛んでいないケースが多いのも名実ともにトップと認められているランク1の選手だとか…。

 

すでに高い評価を得ている選手の場合は、皆から寄せられる期待が大きくなってしまう。その期待がペナルティスポットにいるスター選手の脚をもつれさせるようだ。ランク1の選手はPKの成功率が低いだけでなく、ゴールを完全に外してしまう確率も高い

 

 

そして本の中では、2008年のチャンピオンズ・リーグ決勝でPKを蹴ったチェルシーのキャプテン、テリーのことが描写されています。

私も、今でもはっきりとそのシーンを覚えています。マンチェスター・ユナイテッドはクリスチャーノ・ロナウドがPKを外していて、5人目のキッカー、テリーがPKを決めればチェルシーが初のチャンピオンズ・リーグ優勝を手にするという、これ以上ないクライマックスでした。

 

どこか慌てたような素振りから短い助走でアプローチし、インパクトの瞬間に軸足を滑らせてしまったテリー。ボールはポストを叩いて枠の外へ…。

 

結局その後、ユナイテッドが逆転優勝するのですが、雨の中で続く優勝セレモニーの間中、ずっと顔を上げることなく泣き続けていたテリーの姿にもらい泣きせずにはいられませんでした(テリーもチェルシーも好きじゃないんですが、それでも大きな心の痛みが伝わってくる場面でした)。

 

サッカーファンなら、誰でもきっと、いくつもの信じられないPK失敗のシーンが記憶にあることでしょう

 

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本はさらに、個人だけではなく、PK負けを喫したチームが負のスパイラルにはまっていく様子が統計をベースに解説されています。そこから脱するためのいくつかの案とともに

そしてサッカー以外にも、テニス、陸上、バスケットボールなどいろいろなスポーツの「期待」が科学されていますので、スポーツ好きな方にもオススメの一冊ですよ。

 

常識や先入観と合わせて、自分の脳もときどき疑ってみませんか?

Happy Collaboration!