オリジナルはこちら(2015/9/25)
あなたは今、待てど暮らせどこない電車を駅で待っている。
どうやら何かトラブルがあったらしい。到着が30分ほどアナウンスがあった。やれやれだ。
でもそれだけならまあたいした問題じゃない(もちろん30分無駄な時間を過ごすのは嫌だけど)。
一番の問題は、こんな大事な日だというのに、あなたはケータイを忘れて来てしまったのだ。
そう、重要な約束があるというのに、遅刻すると連絡を入れる方法がないのだ…。
さて今回は、あなたに、雨の日に駅で見知らぬ人から電話を借りる方法をお伝えしようと思う。
うまくやれば成功確率は1/2。つまり1人か、多くても2人にお願いをすればそれでミッション・コンプリートだ。さあ、どんな方法だと思う?
まあ、そう答えを急がないで。「雨の日に駅で見知らぬ人から電話を借りる方法」の続きはまた後で。
(だって、みんなここに書いたらそこで読むのをやめちゃうでしょ?)
ここのところ「チョイスアーキテクチャー(選択設計)」についてちょくちょく考えています。
「チョイスアーキテクチャー」はまだ聞きなれない、一般的とは言えない言葉だと思います。でも、「チョイスとアーキテクチャー」または「選択と設計」という2つの単語の結びつきで、だいたい何のことかはイメージできるんじゃないでしょうか。
「選択肢の提示のしかた」とか、「選択行動デザイン」とか。
その範囲は状況や文脈によって変わりますが、広義に考えれば「意思決定へ導く構造」ということになり、適用分野は「人間の関わるあらゆるものごと」となります。
もともとは行動経済学から生まれてきた言葉です。
さて、どうすれば説得や力づくではなく、また報酬や懇願でもない方法で、人びとを望ましい方向に導くことができるんだろう?
みんなに、自らの意志で進んでその選択肢を選んでもらうにはどうすればいいのか?
だって、人は、自分がしたいと思い、自分が選んだものと感じれば、それはもう熱心に取り組むし周囲にも勧めるようになるものだから。
そんなことを考えていたら、今読んでいた本でちょうどチョイスアーキテクチャーが紹介されていました:
本全体は、問題解決に役立つアイデアを出すための12の道具の紹介を中心に、どういうアプローチでどうそれを組み合わせて状況を変えていくかを「クリエイティブ」をキーワードに紹介しています。
周囲の人びとと一緒に問題を解決していきたいフューチャーセッションのファシリテーターやコラボレーション・エナジャイザー、あるいは一人でじっくりと作戦を練り上げたい事業企画プランナーやコンサルタントにも向いている本ではないでしょうか。
本全体もおもしろいのですが、私はとりわけ冒頭の「雨の日に駅で見知らぬ人から電話を借りる方法」([I'm Sorry About the Rain! Superfluous Apologies Demonstrate Empathic Concern and Increase Trust]--『Social Psychological and Personality Science(社会心理学と人格の科学)』誌、2013年9月号の記事)がコラム的に挟み込まれている「選択肢を設計する」という10ページの短いセクションに強く惹かれました。
今、私が興味を持っているテーマにピッタリだったからです。
引用ここから
■重要になるのは、問題解決のために、彼らに本当にやってほしいことは何か、見極めることだ(…)やってもらいたいことがわかったら、彼らが欲しがりそう なものを考えよう。あなたから。人生から。またはあなたたちが働いている環境やシステムから。彼らの立場に身を置いて、問いかけてみよう。私に何か見返りはあるのか?
◇
■選択肢の設計では、引きつける力(通常なら押しつけるほうの圧力だが)を作り出す。この3つが重なるところを見つけだすところからスタートしよう
- 人びとが好きなこと
- あなたが人びとにしてほしいこと
- あなたが作ったり提供したりできること
◇
■人びとが好きなことの例:
楽しむこと、リラックスすること、安心感を持つこと、賢くなったつもりになること、人に好かれること、もっと成功すること、何か良いことに参加すること、勝つこと、より魅力的になること、笑うこと、喜びを感じること、やりがいのある何かをすること、何かを変えること、認められること、感謝されること、微笑むこと、分け合うこと、おいしいものを食べること、興味深い経験をすること、気持ちの良い経験をすること、わくわくする経験をすること、報われる経験をすること。
引用ここまで
ちょっと興味が沸いてきませんか?
もし、こういった話や本が好きなら、私としては『伝わっているか?』(小西 利行著)を併せて読むことをおススメします。
それでは、「雨の日に駅で見知らぬ人から電話を借りる方法」の答えを。
お、その前に本に書かれていたアインシュタインの言葉を。
「私はそれほど賢いわけではない。ただ、人より長く問題に取り組んだだけだ」
「電話を貸してもらえませんか?」と頼んではダメだ。
それで貸してくれるのはわずか9パーセント、おそらくあなたは10人に頼み続けることになるだろう(その前に心がポキっと折れなければ、だが)。
聞き方の問題なのだ。こう頼んでみよう「雨ですみません! 電話を貸してもらえませんか?」。
これで2人に1人が、厳密には47%が貸してくれるようになるのだ。そう、電話のことを口にする前に謝罪するのだ「雨ですみません!」と。
まったくもって意味がわからない話だと思う。私が雨を降らしているのか? そんなわけはない、むしろ僕だって被害者だ! いったいなぜ被害者の私が見ず知らずの人に謝らなければいけないのだ…?! まあ、電話を貸してもらえさえすれば大助かりなのだが。
人びとは、その謝罪が無意味といえるものであっても、謝ってくる相手の力になりたいと思う生きものらしい。
Happy Collaboration!