Pachi's Blog Annex ~自薦&自選よりぬき~

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ソーシャルメディアとAIと民主主義

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ソーシャルメディアとAIと民主主義。

— 昨日、読み終えたばかりの『AI vs. 民主主義 高度化する世論操作の深層』という新書のキーワードはこの3つだ。

そして3つのキーワードは、職業としても個人の活動としても、ここ10年のおれの活動の柱となっている言葉でもある。そんなわけで、今回はNHK出版から2月に発売されたこの本のことを書いてみよう。

 

なおこの本だが、この辺りの単語を見て「聞いたことがある」とか「何となくは意味が分かる」という人向けかもしれない。

  •  ケンブリッジ・アナリティカ
  •  マイクロターゲティング
  •  フィルターバブル
  •  エコーチェンバー

ただ逆の捉え方をすれば、この辺りを理解したいという人には強くオススメ。

  •  ケンブリッジ・アナリティカ事件の全容 – 複雑な登場人物の相関
  •  フェイスブックで実際に使用されているマイクロターゲティングの実態
  •  フィルターバブルとエコーチェンバーが選挙活動と結果にどれくらいの違いをもたらしているか
  •  ポストプライバシー時代の新しい人権

 

 

舞台の中心は、2016年のアメリカ大統領選挙と2018年の中間選挙

その舞台裏でどのような選挙活動がどのようなツールをどうやって使っていたかを、現場の責任者たちやツールの作成者たちへの丁寧なインタビュー取材で解き明かしていきます。

そして2つの選挙の前後 — 2012年のオバマが勝利した大統領選における民主党ソーシャルメディア戦略がどのように失われていったか、今年秋の大統領選でどのようなことが起きそうか、をも浮かび上がらせます。

 

それにしても、その規模の大きさには改めて驚かされます。

2016年ときは、クリントン陣営がフェイスブックに出した政治広告の総数が6万6千だったのに対し、トランプ陣営は選挙期間中毎日5万種類の政治広告をテストし、投票1カ月前には最大で1日あたり17万種類以上の広告をテストし投稿していたそうです。そしてその費用は日本円で90億円以上だったとか。

アメリカ大統領選の「勝者総取り方式」という(強い自治権を持った州の連邦制ゆえの)仕組みの特殊さも関係していますが、精密にターゲティングした層にこれだけの金をつぎ込めば、番狂わせが実現するんですね。

 

なお、今年の大統領選に費やされるデジタル広告の金額は、おそらくこの2倍に昇るだろうということです。

それが意味するのは、金が世論を作り、票につながるということ。

 

もちろんアメリカの有権者と日本の有権者には、政治に対する意識や行動パターンに相当な違いがあるので、ここで紹介されているやり方が日本でまったく同じように機能するとは思えません。

ただそれでも、手法を日本向けにチューニングすることで、本来はあるはずではなかった未来への道を作り出すことができそうだなとも感じました(「いやー、いくらなんでもさすがに日本にはトランプみたいな総理大臣は出てこないでしょう」とはもう言えないのかも)。

 

これまで「マイクロターゲティングは消費者向けマーケティングではその威力を発揮しているけど、政治利用でそこまで大きな効果を出すのは難しいのでは?」と思っていましたが、どうやら見当違いだったようです。

おれは「規制」が好きではないのですが、「データ提供により受けられる利便性」に感覚が麻痺し過ぎてしまう前に、日常生活の中でもっと「データプライバシー」を意識する機会があった方がいいのかもしれません。

 

最後に、いくつか本の中でおれにとって興味深かった文章を。


これは移民を支援するイベントの広告です。一方、こちらの広告は同じイベントを取り上げ、反移民的なメッセージを打ち出しています。このように、同じ情報筋が一方で移民を支援するイベントを告知しながら、別のページではそのイベントは移民に反対するものだと発信しています(…)最初のページを見て『ああ、私は移民だから、無料で法的支援が受けられるのか』と考えた移民が会場に向かうと、移民に激しく反発する、反移民のデモを行なっている人と鉢合わせるわけです。この場合、たいてい衝突が起きます。

 

インターネットの黎明期には、それによっていままで出会うことのなかった未知の他者をより知ることができるようになると素朴に期待されていた。世界は一つになり、分断はなくなるのだと。しかし情報がAIによって個別に仕分け・操作されるようになると、人々はバラバラになり、対話が成立しない状況が生まれることになったのである。

 

問題の本質は、ネット上に残される私たちの膨大な個人データを使って、特定の有権者にピンポイントで情報を届けることが可能になったことだと指摘する。つまり、これは同じ候補者がそれぞれの有権者にとって都合のいい情報だけを伝える手段が確立したことを意味する

 

キャス・サンスティーンというアメリカの著名な憲法学者が、民主主義が成立する二つの条件をあげています。一つは、個人が自らと異なる『他者』の見解にさらされていること。要するに他者の意見に耳を傾けるといことです。もう一つは、コミュニティの集合的な共有体験を持つこと(…)他者の見解に触れたり共有体験を持つことを、制度的にどう担保していくのか。特にフィルターバブル化が進む状況の中で、民主主義の条件を満たすことがいかにして可能なのかがいま問われています。


 

民主主義は育てゲーなんだと思う。時間と愛情を注いで、手間暇かけて育てるしかないのだろうきっと。

いつか自分たちの力で、自分たち全員を幸せにするという夢が叶えられると信じながら。

Happy Collaboration!