読書メモ『デンマークの親は子どもを褒めない』…実際は褒めます
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以前『俺のクレド』にも書きましたが、私は「みんなが自分と周囲の個性を大切に尊重しながら、幸福とつながりを感じながら生きる」世界が身の周りに拡がって欲しいと願っています。
でも実際には、「自分らしさや自分の感情を上手に隠して生きる」ことがますます拡がっていて、むしろそれが上手になることが、上手く生きるために必要と感じる人が増えているような…。
そんな社会や生活が良いものだとは、私には何をどうしても思えないのです。
一方で、理想的な生きかたを実現しているように私には見えるのが、デンマーク社会です。
視察旅行以来、デンマーク関連の本を読んだり、デンマークで暮らしている人や所縁の深い方たちとの交流を通じ、ずっと「どうしたら自分と周囲の個性を大切に尊重し、幸福を感じながら生きることが当たり前のことにできるのか?」と考え続けていました。
『デンマークの親は子どもを褒めない』という本は、そんな疑問に1つの答えを与えてくれるものでした。
価値観が作られ積み上げられていく幼少期に、家でも学校でも一貫して「個性の尊重と幸せに生きる術こそが重要だ」と教わること。
教える大人たちが、自らがそれを実践し続けること。
それにより、世代を超えて価値観がつながり、社会のスタンダードとなっていくこと。
ところで、この本のタイトルの「子どもを褒めない」は、真意を伝えることに失敗しています。
「え、どういうこと?」と興味を持たせるには役立っているのでしょうが、どちらかと言えばこのタイトルゆえに手に取らせなくしてしまっていそうです。
本の本当の中身を説明しているのは、サブタイトルの『世界一幸せな国が実践する「折れない」子どもの育て方』であり、『The Danish Way Of Parenting – What the Happiest People in the World Know About Raising Confident, Capable Kids』という英語の原題です(「デンマーク流親業 – 世界一幸せな人たちが知っている自信と能力に満ちた子どもの育て方」が1番ストレートな訳ですかね)。
褒めます。褒めるんですよ!
ただその褒め方が、成長マインドセット(growth mindset)を育む褒め方にあらゆる面で徹底しているんです。
具体例はこの本に譲りますが、「努力するプロセス」や「スキルを習得しようという意欲」に焦点を当てて褒め、硬直マインドセット(fixed mindset)と呼ばれる「人からの評価や生まれつきの能力に捉われる」ことがないような褒め方をしているんです(成長/硬直マインドセット自体をもう少し知りたい方には、こちらのページをオススメします)。
褒め方の他にも特徴的なものがいくつかあるのですが、この本ではそれをPARENTという5つの頭文字で紹介しています。
P: Play(遊ぶ) – 自由遊びが、適応力とレジリエンス(折れない心)を持つ「未来の幸せな大人」を育む。
A: Authenticity(ありのままを見る) – 正直な人は自尊心が強い。子どもの褒め方を工夫すれば、「硬直マインドセット」ではなく「成長マインドセット」が育まれ、キレない子どもに育つ。
R: Reframing(視点を変える) – 物の見方を変えると、親子共に人生がいい方向に変わる。
E: Empathy(共感力) – 「共感力」を理解し、実践し、教えることが、幸せな親子になるための必須条件。
N: No Ultimatums(叩かない) – 自分の正しさを主張する「権力争い」をやめて「民主型の子育てスタイル」にすると、信頼関係とレジリエンスが育まれ、子どもがもっと幸せになる。
T: Togetherness (仲間とつながる) – 幸せに生きるためには、仲間との強いつながりを持つことが、何よりも大切な鍵。「ヒュゲ(居心地のいい)」な環境づくりが、親から子へ贈る最強のプレゼント。
先に書いたのは、「A: Authenticity(ありのままを見る)」の部分ですね。
各章それぞれに印象的なポイントがあるのですが、ここでは「P: Play(遊ぶ)」「E: Empathy(共感力)」「No Ultimatums(叩かない)」から一部を引用してご紹介します。
「P: Play(遊ぶ)」
子どもは鉄棒にぶら下がったり、木登りをしたり、高い所から飛び降りることで、危険な状況を試しているのだ。自分にとってのほどよい度合いや対処の方法は、本人にしかわからない。自分が扱える量のストレスを自分でコントロールできていると感じることが重要であり、この経験が、自分が人生の舵を握っているという感覚につながるのだ(…)他人と一緒に遊ぶと、衝突もあれば協力する場面も出てくる。遊びを続けるためには、恐れや怒りなどさまざまな感情に対処する術を学ばなければならない。
「E: Empathy(共感力)」
本心を打ち明けたり、弱みを見せたりすることを恐れるのは、批判や拒絶をされたくないから。この恐怖感が、多くの人間関係をうわべだけのものに制限してしまう(…)一方、バルネラビリティの対極に位置するのが「他人を見下す」ということ(…)批判ではなくサポートが感じられる社会的つながりを持ったほうが、はるかに清々しい気分になれるのをご存知だろうか。
他人を見下し、常に人より上を目指すことの問題点は、「弱い自分」が浮上してきたときに、強い不快感や不安感を覚えることだ。
「No Ultimatums(叩かない)」
デンマークの学校では子どもに民主性を教える一環として、毎年生徒たちが教師と一緒にルール作りをする。年度の始めに教師と生徒が、良いクラスとは何か、クラスを良くするために何を重んじ、どう行動すべきかについて、長時間意見を交換するのだ(…)デンマークの教師は、「ディフランシェーア(differentiere「区別する」の意味)」という指導要領を学んでいる(…)教師は各々の生徒と一緒に目標プランを立て、年に二度、個々の成長をフォローアップする。フォローの対象は、成績、性格、人間関係など、生徒によって様々だ。
私には子どもがいませんし、どちらかと言えば苦手です。そして、これまで幼児教育や学校教育について学んだこともありません。
でも、理想の社会を本当に求めるなら、そこは避けてはいられないなと強く感じました。
具体的なアイデアやアクションはまだ何もないけれど、好奇心や興味を教育にも持ち続けていこうと思っています。
この本からもう1つ私が得たものがあります。
「レジリエンス(折れない心)のある幸福な子ども」を育てるためのさまざまなアドバイスは、私自身を「レジリエンスのある幸福な大人」に育てるためのものでもあるということです。
タイトルで誤解され、子育て中の親や教育関係者に手に取られないのはもったいなさ過ぎる一冊です。
さらには、個性を尊重する生きかたについて考えている大人も手にすべき一冊だと思います。
Happy Collaboration!