Pachi's Blog Annex ~自薦&自選よりぬき~

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アルゴリズム統治かDIYによる格差解消か | 先進テクノロジーが実現すべきビジネス(その3)

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これまで2回にわたり、世界的なビジネスの潮流が社会課題の解決、とりわけ気候危機と経済的不平等解消へと向かっていくことを論じてきた。今回は、その中で重要な鍵を握るデジタルデータの占有と共有について考えてみる。

 

 

「DXだデジタル・ビジネスだと世間は騒いでいるが、結局はGAFAに代表されるデータ所有企業たちが勝者総取りをするようになっただけじゃないか。デジタル変革は、強欲的資本主義とゲゼルシャフトが幅を利かせ過ぎている世界を変えるどころか、格差社会地球温暖化をむしろ前進させている!」と思われる方も少なからずいらっしゃることだろう。

たしかに一理ある。

 

 

だが、それはこの瞬間の断面に過ぎず、今が大きな変化の潮目なのではないかと筆者は見ている。

なぜなら、コロナ禍やアメリカ大統領選などの陰に隠れがちだが、米公聴会でのGAFAへの反トラスト法違反疑惑の追求や、EUにおける各社へのタックスヘイブンによる税金逃れへの追求など、人びとの声に押される形で政治は次の流れの「入り口」に立ち始めているからだ。

少なくとも、データとそれが生み出す利益の再分配を、人びとが注視し始めているのは間違いないだろう。

 


■ データは相手の首根っこを掴む21世紀の「石油」

「データは新しい石油である」という言葉を耳にするようになったのはいつからだったろうか。改めてそれが示唆するものを考えてみよう。

20世紀、石油は、産業の基盤となる電力源の中心となり、さらに車や電車、飛行機などの人とモノの移動を司り、さらに化学繊維や農薬、プラスチックなどの原料としてさまざまな分野を牛耳った。

そんな社会においては、当然のごとく垂直統合型のビジネスモデルが幅を利かせ、「規模の経済」が完成していった。そして規模経済の源泉は石油となり、原油とその価格変動がビジネスの首根っこを掴むようになった。

 

 

そして21世紀の今、新たに君臨しているのがGAFAをはじめとしたデータ中心ビジネスだ。20世紀の石油に取って変わり、新しいビジネスモデルは情報とその解析の組み込みから生まれ続けており、その先頭を走る企業が巨大化を続けている。

データが、それを持たない企業の首根っこを掴むようになっているのだ。そしてその”油田”の中心から、世界の所得格差や社会格差の拡大は広がり続けている。タックスヘイブンやさまざまな手を駆使した、税金という社会の所得再配分システムを逃れることで。

 


■ 格差の広がりと再公営化の流れ

ここで、格差の広がりが近年どのような動きを引き起こしたかを見てみよう。シリーズその1で、以下のように書いた。

ここ20年、市場原理主義により拡大し続けてきた格差と、少なからずそれが引き起こした人口や資本の集中化、そして気候変動という現象に対する「新しい経済モデル」の在り方について、多くの方との対話や意見交換につながることを願っている。

 

 

市場原理主義は、低福祉低負担、自己責任をベースとした小さな政府を標榜し、多くの公共サービスや福祉が民営化されていった。その結果、公共・福祉の多くはひどく弱体化し、その一部は破綻した。

それが顕著に現れているのが、いわば都市集中の”供給源”とも呼べる「地方」だ。

日本はその国土の7割が傾斜地や山林からなる中山間地で、全人口の2割がそこに暮らしている。労働力不足、移動困難、医療難民、後継者不足、地域経済の消滅、コミュニティの消滅…。地方が、挙げていけばきりがないほどの困難に見舞われているのは周知のとおりだ。

 

 

それでは海外はどうだろう。上下水道やゴミの収集・処分、鉄道や郵便などの地域住民の生活を支えるサービスや事業が、小さな政府のかけ声のもとに弱体化してしまい、地域住民の生活を支えられなくなってしまったのは日本と同様だ。

違いは、そこからの復興にある。

フランスのパリ市やスペインのカタルーニャ地方、ドイツのベルリンなどでは水道水の再公営化が実施され、生活環境レベルの向上だけではなく、雇用の創出などによる地域経済の再興を進めている。ヨーロッパだけではない。電力や交通の再公営化がウルグアイやアルゼンチンなどのラテンアメリカで、インドや北米での教育や医療の再公営化なども進んでおり、多くの成功事例が次々と生まれている。

 

 

なお、こうした世界の再公営化の流れは国家よりも自治体主導型のものが多く、「ミュニシパリズム」と呼ばれるムーブメントとの結びつきも強い。

 

参考: 再公営化の最前線発表~アムステルダム市と「公共の力と未来」会議~(岸本聡子)

 

 

■ デジタル・レーニン主義アルゴリズムによる統治

上記の再公営化へとつながる流れと、データ中心ビジネスは直接的なつながりはない。だが「格差の広がり」が市民や自治体主導の取り組みを後押ししたことは間違いない。

そして今、データ経済の進展に伴い、「新たな油田」の近くで別の問題も広がりを見せている。それがアルゴリズムによる統治であり、その最たる例が「デジタル・レーニン主義」だ。

 

 

デジタル・レーニン主義は、共産党一党支配が続く中国をその震源地としている。概要をかいつまんで書くと、こういうことだ。

中国政府は、母体を中国に置く企業が有するあらゆるデータを、労なく手にすることができる。アリババ、テンセント、バイドゥなどに代表される多くの中国テクノロジー企業が、利便性や安全性を提供するという名目でプライバシーと自由を政府に手渡し、共産党政府の考える「人民としての正しい行い」を一緒に推進している。

 

 

なお、ここ数カ月話題となっているTikTokアメリカやインドでの活動停止やファーフェイ製品の締め出しも、根本にあるのは「母体を中国に置く企業へのデータ提供」のリスクである。すぐに頭に浮かぶのは国家安全保障だが、それ以外にも通商における悪用や、香港や台湾などの地政学的問題への濫用など、データを中国に握られることに脅威を感じるのは当然と言えるだろう。

そしてここでは中国の対アフリカ援助が伸び続けていることと、中国製のスマートフォンがアフリカ市場を席巻していることも付け加えておく。

 

 

もう一つ、中国とは無縁のアルゴリズムによる統治の話題を紹介する。今年5月、グーグルの親会社であるアルファベットが正式に開発計画の断念を発表した、トロントのスマートシティ計画だ。

詳細は下記の参考記事に譲るが、失敗の最も大きなポイントはコロナ禍における財政上の問題ではない。対象地区の当局者や地域住民たちの、民間企業の支配下に生活が置かれることへの不安が、プライバシーの商業利用と監視社会への恐怖がその中核にある。

つまり、アルゴリズムによる統治への不信だ。

 

参考: トロントのスマートシティ計画はなぜ失敗したか?――文明評論家・リフキンが示す、官民提携ビジネスモデルの課題

 

 

今後、ビジネスと地域統治の問題に直面することとなるだろう。

デジタル・レーニン主義は、震源地の中国からアフリカをはじめとした世界へと広がり続けている。

 

 

 

東京電機大学IBMによる「デジタル・ビレッジ・プラットフォーム」

シリーズ「先進テクノロジーが実現すべきビジネス」の最後に、筆者も関係しているDIYで地域課題解決をするためのデータ流通プラットフォームの取り組みを紹介する。

今年春、日本IBMは、東京電機大学(TDU)とエクスポリス合同会社と共に下記リリースを配信した。

 

地方創生の推進に向け、地域の取り組みを連携させるIT基盤の実証実験を開始 | データ流通プラットフォームと地域課題流通マーケットプレイスを構築 

 

 

行政と企業と大学や研究機関が協業した地方創生への取り組みは珍しくなく、この数年間に何度となく目にしてきた。だがこの取り組みの最大の注目ポイントは、地域住民が中心に置かれたDIY型であることだ。そして企業だけではなく、地域を応援したい個人が関係人口として持続的に仕組みに加われることにある。

課題解決ソリューションの開発や供給を行うデータ流通プラットフォームである「DVP(デジタル・ビレッジ・プラットフォーム)」には、産業構造や人口動態、地域の人の流れや消費などの官民ビッグデータを集約した地域経済分析システムである「RESAS(リーサス)」を、より使いやすくして組み込むことを検討している。

そして住民が日々「あったらいいな」と思うアプリケーションを、中学生でも開発し販売できるようなDMP(デジタルマーケットプレイス)をDVP上に設けて連動させようとしている。

 

 

これまで書いてきたように、筆者はテクノロジーが市民の方を向いたものとなっているか、企業や管理者の方を向いたものになっていないかに、特に注意を払っている。そんな中で、その土地に暮らす人びとの目線を大切にし、かつ関係人口増加や未来の住民となる可能性を広げるシステムがここまでデザインされたものを、筆者は他に知らない。

手前味噌ではあるが、IBM東京電機大学のこの取り組みには大きな可能性を感じている。詳しくは下記の記事をご覧いただきたい。

参考: 「自治体のDXを促進する地域課題の抽出、解決、運用のサイクルを支えるデータ流通プラットフォームの取り組み紹介」レポート

 

 

 

■ パートナーシップで目標を達成するために

3回にわたり先進テクノロジーが実現すべきビジネスを考察してきた。

そこから見えてきたのは、DXによりデジタルデータが一層その価値を高めていく中で、経済格差解消と地球環境悪化を防ぐための実践が、ビジネスの進め方と直結していること(直結していなければ市場からの退場を突きつけられること)であった。そして企業のデータ統治モデルが、地域や国家の統治モデルと強く結びついていく姿だった。

 

このデータやアルゴリズムを基盤としたAIの時代への変革を、ディストピア的な世界への始まりと感じつつもその流れに身を委ねるのか、あるいはこれまで解決できずにいた社会課題解決への扉が開き、市民社会と個人の生活をより良いものとするためのビジネスが栄える時代の始まりと認識し、積極的にその流れに関わっていくのか。

このシリーズをきっかけに、「目標17: パートナーシップで目標を達成しよう」という呼びかけに応え、共に社会課題解決に取り組む仲間が見つかれば冥利に尽きる。

 


ABOUT THE AUTHOR:
八木橋パチ(やぎはしぱち)

日本アイ・ビー・エムにて先進テクノロジーの社会実装を推進するコラボレーション・エナジャイザー。<#混ぜなきゃ危険>をキーワードに、人や組織をつなぎ混ぜ合わしている。
運用サイト: AI Applications Blog

 

 

某サイトに寄稿したものの、ボツになってしまいました…。そんなわけで、いつもとは違うトーンになっております。

Happy Collaboration!