オリジナルはこちら(2015/10/7)
チスイコウモリが「互恵的利他行動(ゴケイテキリタコウドウ)」を取ることはわりと知られています。
参考: 第9回 助け合いで飢えを防ぐチスイコウモリ(2/2)
互恵的利他行動は、自身が危なくなったときにはお返しに助けてもらえるだろうということをあてにした、一見「利他的行動」に見える「利己的行動」のことです。
昔からずっと「物質的にも精神的にもまったく見返りを求めることも意識することもなく、利他的行動を取れるヒトや生きものって本当に存在するんだろうか?」という疑問を持っていました。
また、ちょっと似ているのですが、最近しょっちゅう「しない善よりする偽善」という言葉が頭に浮かびます。
例えば、ガンジーやマザーテレサは、実際は「ヒトを救うことで得られる精神的充足ジャンキー」だったんじゃないか? とか。
参考: ガンジーが言ってない「ガンジーの名言」7つ
誤解されないよう、早めに私のスタンスを明確にしておきますね。
私は、それによって救われる人がいたり結果がプラスになるなら、偽善だろうがなんだろうが大歓迎主義大賛成派です。
参考: 岡村健右さんとの熱い対話@Looopsオフィス~居酒屋~ダーツバー
ちょっととりとめない感じになりましたが、最近読んだ『だまされ上手が生き残る 入門! 進化心理学(石川幹人 著)』という本の『人間は「協力するサル」である』という第5章に、進化心理学の観点からこうした人間の互恵的利他行動についての解説が書かれていました。
興味深い記載がいくつかあったので、サマリーしてみます(なお、冒頭のチスイコウモリの話が同書にも書かれていました)。
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・できるだけ安全に、かつ効率よく狩猟生活をするために集団を組むようになる
・集団内で分業体制を組むようになると、個々人の能力が多様なグループのほうが生き残りやすくなる
・分業をうまく進めるために、自分の得意なことを各自ディスプレーするようになる(ディスプレーの効率化のために言語が進化した可能性も)
■義理人情と裏切り者検知能力
・集団維持に協力が必要な中、義理人情の感覚や公平感という感情が進化
・持ち逃げやひとり占めに対し「半道徳的」だと感じる憤りの感情が進化し、掟の取り決めと運用が発達
・協力集団を維持するために、掟をやぶる裏切り者を検知する能力が進化し、集団からの排除などの対抗手段が発達
■「囚人のジレンマ」の多人数版である「公共財ゲーム」の実験で分かること
・互恵的利他行動は、そこに加わらない者がいると全体としては衰退していく(ただし、相手にかかわらずひたすら協力を貫く者もいる)
・互恵的利他行動を成立させるには、同じ相手との繰り返しが必要
・同じ相手との繰り返しを成立させるには相手の識別が重要。顔認識の進化へ(裏切り者の顔を覚える記憶力が強化された)
■正義感のディスプレーと評判という利己的行動
・曲がったことは大嫌いだという正義感をディスプレーすることが、報復を予感させタダ乗り抑止力となる
・ただし、実際の「報復」が行われないことが続き過ぎると、ディスプレーは効果を失う
・(純粋な利他的行動に見える)協力を貫くことで自分の評判をあげ、長期的な利益を確保する(利己的行動)、「評判」を使ったタダ乗り防止策も効果的
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互恵的利他行動の背景を短くまとめようとしてみましたが…なかなか難しいです。
興味のある方には、第5章『人間は「協力するサル」である』だけでも実際に本を手にすると良いかと思います。長さも25ページなので時間もさほどかからないでしょう(でも、この第5章が気になる人は、きっと第6章『文明社会への適応戦略--信頼の転換』も読みたくなるんじゃないかな)。
感情や倫理に関わる問題を、なんでもかんでも「ああ、それは進化の過程で脳が身につけたんだよ」とか「ヒトの環境適応の結果だね」なんて言ってしまうと味気ないですが、それでも、自分自身や社会の動きになんらかのメカニズムが見えると、納得感や安心感が得られるものです。
また、そうした脳の働きを逆手に取って、より良い方向に自分たちが向かえるようにできるのも、これまで生き延びて進化してきた私たち「協力するサル」の特徴じゃないですかね。
行動する偽善者バンザイ!
Happy Collaboration!